シネマッド2021年7月号
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14 梅雨明けと新型コロナの収束を祈念して、今回はこの作品̶。 1998年に逝った巨匠・黒沢明が遺した脚本(山本周五郎原作)を、助監督だった小泉堯史(初監督)や撮影、美術、音楽など“黒沢組”のスタッフが再結集して映画化した追悼作。中でも興味深いのは長年スクリプター(記録係)として付き「黒沢演出」を知り尽す野上照代が監督補として参加し、黒沢作品の空気を漂わせていることだ。 亨保、八代将軍・吉宗公の時代。剣の達人だが人の好さから仕官も叶わぬまま流浪の旅を続ける三沢伊兵衛(寺尾聡)と良妻たよ(宮崎美子)は、大雨が続いて川を渡れず宿場に足留めとなる。鬱々として安宿にひしめく貧しい人々のため伊兵衛は“賭け試合”で稼いだ金で酒や料理を振る舞うのだった。 雨があがり散歩に出た伊兵衛は若侍同士の果たし合いに遭遇し、達人の技で仲裁に入る。その腕を見込んだ藩主・永井和泉守(三船史郎=三船敏郎の長男)が藩の剣術指南役に迎えようとするが、家老たちは猛反対。ならばと御前試合で判断することになる。ところが、自ら槍を持って相手になった和泉守を伊兵衛は池に投げ入れるという失態…。 後日、家老が宿を訪れて、賭け試合を理由に仕官の話はなかったことにと伝える。すると、たよが賭け試合をした理由も知らず非難するとは木偶の坊だ!こちらから辞退する̶と追い返す。すぐ旅に出た伊兵衛とたよの顔は雨あがりの青空のように清々しかった。 《周五郎×黒沢ワールド》に心が和む一編だ。殺陣は短く濃厚で、ワイヤーアクションなんぞ使わずとも迫力満点。この後も小泉監督は秀作を作り続け、この夏『峠~最後のサムライ』(役所広司主演)が公開される。期待大!File No.43『雨あがる』〔2000年(平成12年)/91分◆黒沢明脚本・小泉堯史監督〕※小泉堯史監督作『阿弥陀堂だより』『博士の愛した数式』『明日への遺言』『蜩ノ記』/脚本『散り椿』いずみのかみたかしで く   ぼう

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