シネマッド2021年8月号
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 コロナ禍の中、東京五輪・パラリンピックが開幕した。開会式をはじめ、ほとんどの競技が「無観客」という異例の大会となった。 「有観客」の競技会場もあるにはあるが、観戦は「ぜひ『直行直帰』でお願いしたい」と大会組織委や政府。つまり、自宅から会場まで直行し、帰路も寄り道せず帰宅するように、との要請である。 それだけではない。会場では「大きな声を出さない」「肩を組むなどの密は避けて…」「飲食も控えて…」といった〝我慢〞が要求される。これでは、直接観戦の楽しみも意義も半減。詰まるところ、「自宅でテレビ観戦」が賢い選択となる。 もともと『直行直帰』はビジネス用語である。ビジネスマンが自宅から営業先や作業現場に直接出勤し、業務活動を終えたら会社に立ち寄らず帰宅する。業務報告や連絡は全てITシステムによる。仕事や経費の効率化と、組織に縛られない個性豊かな生活の両立を目指すもの。ポスト・コロナの新しい勤務形態として脚光を浴びそうだ。 それに比べて、大会組織委や政府の求める『直行直帰』は夢も希望もない。否、人流によるコロナ感染に目をつぶる愚策といえよう。感染は拡大一途。大会の再延期や中止を求める国内多数の世論に抗しての政治判断が、次々と裏目に出ている。 もっとも、われら昭和世代には『直行直帰』なる成句には、正直、違和感がある。『直行』はまだしも『直帰』には賛成しかねる。仕事を終えての時間は先輩同僚と一杯傾けながらの貴重なコミュニケーションの場。さらに、本屋めぐり、趣味や教養の習い事、体力づくりのための有意義な時間帯だった。『直行遊帰』の生活スタイルが身に染みている。 だが、今はリタイアの身。コロナ禍の中、通院も買い物も『直行直帰』に宗旨替え。ワクチン接種も無事2回終了。五輪・パラリンピックには「開幕中成功よりも無事を願うばかり」(新聞読者川柳)の心境だ。その百九十四十ちょっこうちょっき﹁五輪強行﹂苦肉の要請直行直帰いなぐさくし・しゅうし が

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