シネマッド2021年8月号
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14 8月―どうしても一度は語っておくべきテーマを世界のクロサワは30本目の監督作で長崎を舞台にこう描いた。原作は村田喜代子の芥川賞受賞作『鍋の中』。 長崎市郊外の山村に住む老婆・鉦(村瀬幸子)に航空便が届いた。戦前に移住しハワイで大成功した農園主だという兄の錫二郎が病に倒れ、死ぬ前に鉦の顔を見たいと言っている―という内容だった。が、兄弟姉妹が15人もいたうえに遥か昔のことなので鉦には錫二郎の顔さえ思い出せない。 渡米を拒む鉦に代わって息子の忠雄(井川比佐志)と娘・良江(根岸季衣)が「親戚に富豪がいた!」と喜び勇んでハワイに渡った。そのため縦男(吉岡秀隆)、たみ(大寶智子)たち4人の孫は、鉦の古い家で夏休みを過ごすことになる。 若者たちは鉦の昔話を聞いたり長崎市内を歩きながら被爆の史実に関心を持ちはじめる。その後、紆余曲折あり錫二郎の息子クラーク(リチャード・ギア)が鉦を訪ねて来る。彼は鉦の哀しい体験を知り、心を痛め、涙を流す。鉦が“ハワイ行き”を決意したのと入れ違いに「錫二郎死す」の電報が届いた。急ぎ帰国するクラークを見送った後、忠雄たちは富豪との縁が切れるかもと心配する始末。鉦は怒りを露にして「ピカは戦争ば止むるために落とした言うて、まだ戦争ば止めとらん。人殺しば続けとる!。戦争に勝つために、人は何んでんしよる。いずれ己ば滅ぼすことまですっとじゃ…」。孫たちは言う。「人間ってすぐに忘れてしまうのね」「俺は絶対に忘れないぞ!」―これが黒沢明の世界へのメッセージ。 『生きものの記録』(1955)で黒沢監督は“核の恐怖”におののく男を通して人類の愚かさを描いたが、「狂詩曲」で未来に語りかけた。File No.44『八月の狂詩曲』〔1991年(平成3年)=黒沢プロ製作・松竹配給/98分◆黒沢明監督〕かねエアメールすずあらわ

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