シネマッド2021年8月号
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三昭和19年9月、京都帝国大学理学部の荒勝教授(國村隼)は海軍の要請で原子力を利用した新型爆弾の開発にあたっていた。研究室も資材難で、実験好きの学生・石村修(柳楽優弥)は五条坂の陶器職人・沢村(イッセー尾形)から釉薬に使う硝酸ウランを譲り受け、ウラン分離実験に没頭している。 幼馴染みの朝倉世津(有村架純)の家が〝建物疎開〞で取り壊され、彼女は祖父(山本晋也)と共に石村家の離れで暮らすことに。そこへ修の弟で陸軍の下士官として出征していた裕之(三浦春馬)が帰って来る。決戦前に体を労っておけ―という上官の温情だった。三人は束の間の笑顔を弾けさせる…。 昭和20年の初夏、裕之は再び前線へ戻って行く。そして修たちの実験が成果をみせはじめた頃、ラジオが「広島に新型爆弾!」の一報を伝え、荒勝教授や修たちはすぐさま広島へ現地調査に向かう―。〔1時間 51分〕オープニングの窯の炎(作るのは骨壺)、世津が工場で焼べ続ける石炭、研究室で弾ける実験の光、広島で積み上げられた屍を焼く「劫火」…多くの炎が心をジリジリと焦がす。そこへアインシュタインの声が響く。「これは終わりではない。科学の進歩の一過程だ(中略)科学は人間を超えていく。それは誰にも止められない。これまでも、これからも…」。この警告と、青春や家族愛が心に突き刺さる秀作だ。世津が修と裕之に未来を語る縁側の場面(写真上)が秀逸で、彼女が母親に見える。ラスト、戦争がなければ見られたはずの青春像が哀しい。〔良〕○C2021 ELEVEN ARTS STUDIOS/「太陽の子」フィルムパートナーズ

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