何をしても上手くいかない。周囲からもことごとく非難され、孤立無援の状態を『四面楚歌』という。長い人生の中でこんな辛い経験をした人は少なくないだろう。 では『楚歌』とは、どんな歌なのか。中国の「史記・項羽本記」によれば―《楚の項羽の砦が漢の劉邦の軍に包囲されたとき、漢軍が城の外から哀調のこもった「楚の歌」を盛んに歌った。これを聞いた項羽は楚の住民が漢に降伏したものと観念し自害した》―まんまと劉邦の策略に嵌ったわけだ。以来『楚歌』は「策略の歌」の代名詞になった。 コロナ対応などで後手を踏んだ菅前首相が就任一年で政権を投げ出した。支持率も過去最低の31%、解散権も封じられ、「菅首相では総選挙が戦えない」とする自民党内からの〝総裁降ろし〞の大合唱も。まさに『四面楚歌』の状態に。 新たな総裁に広島一区選出の岸田文雄前外相が選ばれ、第百代総理大臣に就任した。万事塞翁が馬。ちょうど一年前、総裁選に敗れ「政治生命も終わりか」と囁かれたが、復活を果たした。「新しい資本主義」「核兵器の無い世界平和」を唱えて郷土の期待を集めている。 ただ、バックに旧態依然の「長老支配」の影が伺える。森・加計問題や公文書改ざん、先の参院選での自民党本部からの「一億五千万円提供問題」など国民の不信を払う説明がし切れるのか。政界は一寸先は闇。菅政権と同様〝永田町の変な歌〞がいつ湧き上がるかも知れない。惑わされないよう祈るばかりだ。 われわれ国民もこの二年、コロナパンデミックの「恐怖の歌」に怯え続けてきた。ワクチン接種が進み、新薬や治療法も開発され、遅ればせながら「コロナとの共生」「経済活動との両立」といった前向きの社会的機運が高まってきている。 この欄でも指摘したように、ウィルスとの「共生」は人類の宿命。「ポストコロナ」時代を生き抜く強い覚悟と英知が求められよう。その百九十七十二しめんそか権力界では﹁策略の歌﹂四面楚歌う まこううりゅうほうささやはまおびさいおう
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