シネマッド2021年11月
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14 前号の巻頭特集で紹介のように広島吟醸酒物語『吟ずる者たち』の主要スタッフが関わった今村昌平監督作品の1本。撮影=小松原茂と美術=稲垣尚夫の2人は「日本アカデミー賞」優秀賞を。加えて助監督の桑原昌英、ヘアメイクの井川成子も「うなぎ学校」修了生だ。そして今村監督は『楢山節考』に続きカンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールに輝いている。 吉村昭の『闇にひらめく』が原作で、今村監督と長男の映画監督・天願大介、そして冨川元文が脚色にあたった異色作。 平凡な中年のサラリーマン山下拓郎(役所広司)は、差出人不明の手紙で妻が浮気をしていると知り動揺する。趣味の夜釣りに行くと言って家を出た後、こっそり帰宅すると、密告どおり情事の現場を目撃。激昂した山下は包丁を手に妻と間男を滅多刺し―。自首した彼は刑務所に送られた。8年後、模範囚として仮出所した彼は千葉・佐倉市の寺の住職・中島(常田富士男)と妻の美佐子(倍賞美津子)に世話してもらい利根川の川べりに小さな理髪店を開業、ひっそりと暮らしはじめる。唯一の話し相手は一匹のうなぎ―。 周囲の人たちは興味津々だが、山下はひたすら目立たず、静かに生きようとする。そんなある日、彼は河原で自殺を図った女・服部桂子(清水美砂)を助け、成り行きで理髪店を手伝わせることになり身の周りが騒がしくなる…。 人間の“生きるエネルギー”を力強く描く今村監督だが、この作品の主人公は静かに生きたいと願うのに騒動に巻き込まれることで、うなぎのような生命力を発揮することになる。しかも時にコミカルに描くことで、人間の喜怒哀楽を際立たせた。カメラの目線は貴方か、それとも利根川の“主”か―。File No.47『うなぎ』〔1997年(平成9年)=松竹・今村プロ/117分◆今村昌平監督〕

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