シネマッド2021年11月
4/26

三 映画﹃吟ずる者たち﹄が完成しました。構想から七年ほど経ったでしょうか。関係者の皆様方に心よりお慶びを申し上げますと同時に、三浦仙三郎先生のご功績により広島で吟醸酒が発祥した史実がこの映画を通し世界中に知らせることが出来ることに深く感謝申し上げる次第です。 コロナ禍で酒類関係業者はとても厳しい時期を耐えてきました。特に飲食店さんとそこに納品する酒屋さんは事業を継続するために必死で頑張って来られました。我々生産者も同様ですし、更に酒米農家の方々も転作を余儀なくされるなど、関係業界が皆、喘いで居ります。この映画は、それを乗り越える後押しになるものと思います。 わが蔵での撮影が決まった三年前の七月には西日本豪雨により撮影予定の座敷などが水没、壁や畳などを全て修繕、入れ替えたことを思い出します。今年の七月もまた同様に水没したことが残念です。 この映画は、三浦仙三郎先生や佐竹利市先生、橋爪陽先生のご努力により、現在の日本酒の源流となった﹁吟醸造り﹂の誕生と、蔵の個性を生み出すことの大切さとを伝えていると感じます。弊蔵の﹁龍勢﹂が明治四十年開催の﹁第一回全国清酒品評会﹂において日本一の栄誉を頂戴したことは、三浦先生をはじめ諸先生や同業者のお陰と存じます。その際に三浦先生から頂戴した書︵写真左上︶は大切に保管し、この映画でも紹介して頂いて居ります。その場面で私が主人公にご説明した三浦先生の書は、﹁この日本一の名誉は郡県︵広島県全体︶に及ぶ﹂と書されて居ります。﹁龍勢﹂は、この名誉に恥じない酒造りを続けて参りました。特に三浦先生の時代と同様に添加物などを一切使わず、〝自然との対話〞で醸し上げる﹁伝統生 造り﹂を基本に、現代風の酒には無い本来の魅力を醸し上げています。 広島の酒は画一的な酒質ではなく、それぞれの蔵が個性豊かに醸しています。その深い魅力は全国的にも珍しいことで、わが﹁龍勢﹂は強い酵母を育成し、しっかりと発酵させるため、甘みは少ないのですが、お米の旨味とキレの良さ、開栓後にも長く保てる酒質で多くのファンの方々に愛されて居ります。更に皆様にご支持いただける飽きない魅力の、食事と共に楽しめるお酒を醸し続けて参ります。 ちょうど︽伝統的酒造り︾が﹁登録無形文化財﹂に推挙されました。その〝源流〞を描いた感動作﹃吟ずる者たち﹄が国内のみならず世界中で日本酒の啓蒙発展に資するものと期待して居ります。特集特集映画『吟ずる者たち』と「龍勢」竹原藤井酒造五代目蔵元 藤井善文特別寄稿

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る