シネマッド2022年1月
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 『百試千改』とは、酒処・広島の歴史が生んだ〝酒造りの格言〞とされる。その心は《何度も試して直す。なんぼいけんかっても、そこを見つけて直す。わしゃあ負けんぞ》―。広島「吟醸酒の父」と呼ばれる安芸津の酒造家・三浦仙三郎が明治初期に体現し、今も脈々と継承されている酒造りの〝魂〞でもある。 広島の水は軟水で、酒造りに不向きとされてきた。が、仙三郎はまさに「百回試み、千回改める」という不屈の精神で研究改良を重ね、芳醇な香りと旨味が調和した軟水による「吟醸酒」の醸造に成功。いまや日本酒の主流をなしている。 その一代記が《吟ずる者たち》のタイトルで映画化された。竹原市出身の油谷誠至監督や安佐北区出身の女優戸田菜穂ら出演者もスタッフも広島にゆかりの深いメンバーばかりで巧みな広島弁が飛び交う。当シネマッド誌の中野良彦編集長も蔵人役で出演。ロケも東広島市を中心に行われ、ドキュメンタリー映画を見ているような現実感を覚える。 それは、仙三郎(中村俊介)登場の「明治の情景」、その杜氏の末裔、永峰明日香(比嘉愛未)が父の意思を継ぐ「令和の情景」を、交互に絡め展開する油谷監督らの表現手腕によるものだろう。「二人の主役」中村や比嘉らのキャスティングも成功。広島県民に誇りと感動を与える「映像による記録」といえようか。 広島は明治から昭和にかけて造船や自動車など「もの造り産業」が発展してきた。それらを支えてきたのも『百試千改』の精神である。菓子づくりにも「百回試して千回改める」を社是としているメーカーも。つまり、いつの時代にも通じる「もの造りの基本技」なのだ。 さて、お正月―。お節料理を前に旨い吟醸酒を飲みながら考えることは「一年の計」。私生活でも『百試千改』を実行してみたい。野菜や花づくり、庭木の剪定などなど。「三日坊主には無理、無理です!」そんな声が台所から聞こえてくる。その百九十九十ひゃくしせんかい広島伝統﹁酒造りの魂﹂百試千改さけどころ・・・ほうじゅんうまみまつえいせちせんてい

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