シネマッド2022年2月
4/26

三で繋がって、この地で、この物語を撮ろう―と決めたんです」 とは言え、今回は大資本の支援はない。逆に「かつての『白い船』当時の〝原点〞に戻ってみよう」と覚悟を決めて、地道に準備を進めた。幸い「これまでの実績を石見の方たちもご存知で、いい映画を撮るためならとずいぶんご協力いただきました。『白い船』でお世話になった平田商工会議所の方がわざわざ益田の企業の方々にアドバイスしてくださったりと力強い後押しも…」と錦織監督。 甲本が扮するのは牧場主で、山の中腹にある自宅の前に雲海が広がるシーンに驚いた。錦織監督は笑顔で明かした。「実は三日も通って…。初日でOKだったんですが、牧場の社長さんが明日はもっと綺麗な雲海が見れるよ―と言われたので、次の日も朝4時起きで。そして次の日もとなったんですが、役者たちの芝居も次第に肩の力が抜けて良くなったんです」と。一方の甲本も「初めての主演は嬉しかったんですが、現場ではその意識が邪魔で、自分の中で〝引き算〞してました。あんな景色の中では、見せかけの演技ではダメって言われているような気がして。いかに〝そこで暮らしている人〞になれるか―でした」と振り返る。 フィルムでの撮影は、デジタルの何十倍も経費がかさむが、そのぶん入魂のシーンが撮れるうえ、甲本も「フィルムカメラの前に立てる幸せと、僕らを信頼してカメラを回してくださる監督に感謝する、役者冥利に尽きるロケでしたね」と。そして錦織監督も「高津川は生活圏の下流まで水が綺麗。それがどれだけ豊かなのか―。お金ではない贅沢な映画づくりでした」と満足げ。 こうして撮った高津川流域の人間模様には、過疎化、高齢化、介護、再開発、そして家業や伝統の継承…と多くの問題が滲み出る。「これは石見だけでなく、全国の〝地方〞にも共通する、静かで熱い映画です」 現時点で広島での〝再起動〞は未定だが、待望の声は多い。そこで小誌も応援団の一員として何らかの策を講じようと独自企画を準備中。★ラストシーンで陽子役の戸田菜穂が見せたアドリブの〝愛情表現〞も見どころInterviewInterview○C2019映画「高津川」製作委員会

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る