疾走する『ドライブ・マイ・カー』米アカデミー賞の「国際長編映画賞」に輝いた『ドライブ・マイ・カー』がまだまだヒットを続けている。昨年暮れから上映している「八丁座」では、当初から映画ファンの注目を集めて手堅い入りを見せていたが、アカデミー賞ノミネートが発表されてからというもの満席続き、受賞してからはなおさらの大ヒットだ。5月26日までの二十二週で計約一万九千人という、アート系作品としては驚異的な成績を収めている。「八丁座・壱」の客席が百六十七だから、一日一回上映として平均74%の席が埋まっている計算になる。五カ月ものロングランで!地味なイメージの秀作が何故こんなに大ヒットしているのか―。ひとつの要因は〔ロケ地・広島の魅力〕だろう。この作品、当初は主に韓国でロケする予定だったが、東京での撮影が終わった頃、コロナ禍で渡韓できなくなり、やむなく主要舞台を国内に変更。イメージとしては西日本、瀬戸内海の風景も盛り込みたい…とロケハンして歩く中、広島も有力候補になった。何カ所か見て回った後、濱口竜介監督が「他にどこか〝おすすめ〟は?」と尋ねたので、広島フィルムコミッションの西崎智子さんが〝平和の軸線〟を説明しながら吉島の中工場に案内した。「広島はゴミ焼却場にまで平和への思いを込めているのか!」と感激、これが決め手となって広島ロケが決定した。文字どおり「国際平和文化都市」のイメージが溢れている―と、濱口監督はロケ中の緊急記者会見で語ったほど手応えを感じたようだ。映画には原爆ドームも慰霊碑も宮島も出てこない。が、何気ない風景の中にも主人公・家福悠介(西島秀俊)らの心情などがじんわりと表現されており、世界には「広島」の新しいイメージが伝わったと評する人も多い。長いトンネルを走りながらドライバー渡利みさき(三浦透子) ☆八丁座では6月2日までと、アンコールで6月10日〜16日まで上映されますとの重苦しい対話が終わると、目の前に開ける広島市街地の夜景…。会議室での真剣な稽古が続いた後、穏やかな木立ちの中(平和公園の片隅)での立ち稽古で起こる〝小さな奇跡〟…。言葉が行き交う現実世界と、家福が自らの心と対峙する〝別世界〟の島の宿(御手洗)とを結ぶ安芸灘大橋…。どれもが素晴らしい映像効果をあげている。次に、家福夫妻の〝寝物語〟の展開を〔推理〕しながら、それを脚本にするという奇抜な設定の根底にある深層心理も〔推理〕する面白さ。そして妻の急死を機に彼女が遺した謎を〔推理〕していくという仕掛けにも惹かれるわけだ。さらにその過程で「この言葉の裏には驚異的なロングランの秘密は? 二特別掲載特別掲載
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