これが映画初出演。この後、『一命』『利休にたずねよ』などでも主演した。11懇願する。「小作農家に生まれた俺は軍神になるしかないんだ!」と。次に決死の覚悟を決めた並木の艇も機関を起動できず、作戦を断念した鹿島艦長(香川照之)は光基地への帰投を決断する。途中、豊後水道で沖縄へ向かう戦艦大和とすれ違った…。 基地では並木の野球での勇姿を知っている整備兵・伊藤(塩谷瞬)とのキャッチボールに癒されて、並木は薄く微笑みながら「人間が“回天”という兵器の一部になったという《哀しい事実》を語り残してもらうために俺は死ぬ」と呟く。やがて彼は再訓練中、艇が海底に突き刺さり、後進も脱出もできず“水中の棺”に…。間もなく終戦になり、翌9月の枕崎台風で光の海も掻き回され、艇は海底を離れて浮上する。進駐軍に連れられ駆けつけた伊藤はハッチを開け、並木の姿を確認する。その足元には、薄れゆく意識の中で遺言を綴った手帳が落ちていた…。 戦争の虚しさをこれほど強烈に描いた作品は数少ない。海に空に特攻で散ったのは未来のある若者たちで、百戦錬磨の上官たちではなかった。戦後復興を担うはずの青年たちが文字どおり「犬死に」を強いられたのである。観るたびに哀しさ、悔しさが胸に突き刺さり涙が溢れて止まらない。 ラストで並木の“遺書”に対する美奈子の『返信』(作詞・作曲・歌=竹内まりや/編曲=山下達郎)が流れ、涙が倍増する。邦画屈指の主題歌と断言したい。会見でそう伝えると、佐々部清監督は自作で初めて主題歌を採用したと明かし「僕も泣かされました。この曲がドラマをつくってくれて、新しい刺激になりました」と語った。
元のページ ../index.html#17