《大関の名を汚さぬよう気迫一閃の精神で努力いたします》―とは、名古屋場所で優勝し大関昇進を果たしたモンゴル出身の豊昇龍(本名スガラクチャー・ビャンバスレン)が昇進伝達式で述べた口上である。 『気迫一閃』とは、どんなことがあっても力強く立ち向かう―という古くから角界に伝わる故事。小柄ながら気迫あふれる彼らしい口上だ。それまでは「大関の名を汚さぬように頑張ります」という無難なセリフが通り相場だったが、若貴兄弟の頃から故事引用が流行り始めた。兄弟の口上は『一意専心』『不惜身命』だった。残念ながら最近目立つのはモンゴル出身力士の口上ばかり。日本力士の影が薄い。 豊昇龍の大関昇進は霧馬山に続いてモンゴル出身十七人目。次期横綱に〝一番近い力士〟と期待を集めている。あの元横綱・朝青龍は叔父にあたる。気迫あふれる闘志は、叔父譲りだろう。 ところで、相撲界で待たれるのは「日本出身力士の活躍」だ。その影が薄い遠因はいろいろ取り沙汰されている。筆者が直接聞いた印象的な嘆きは、初代・若乃花(花田勝治)の二所ノ関親方からだ―。 《巡業に行ってね、有望な少年をスカウトし連れて帰るとき、最近の親はみんな「苦しくなったらいつでも帰ってこい」なんだ。昔のように「辛いことがあっても我慢して立派な力士になるんだよ」といった叱咤激励の声は聞かれなくなった…》 要するに「社会全体が安きに流れ苦労せずに成果だけを得たいとする風潮にある」との鋭い指摘である。さらには「衣食住足りてハングリー精神を忘れてしまった」とする時代分析の声も聞かれる。 角界には《土俵に金が埋まっている》という格言がある。日本出身の若い力士たちには、どんな苦難にも立ち向かう『気迫一閃』の心意気でぜひ《土俵の金》を手にしてもらいたい。健在なら、二所ノ関親方の嘆きの念も和らぐだろう。けがかくかいわかたかは やいちせんしん ふしゃくしんみょうほうしょうりゅうこうじょうつらお じげきれいやわしったカネ重責担う﹁力士の誓い﹂その二百二十気迫一閃いきはくいっせん六
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