2023年11月
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『神様のくれた赤ん坊』〔1979年(昭和54年)=松竹/91分◆前田陽一監督〕6 秋風も心地よい、ほんわかしたロードムービーの快作。松竹喜劇の雄・前田陽一監督の脚本と名作『約束』『津軽じょんがら節』などの名手・坂本典隆の撮影が秀逸。 役者の卵・小夜子(桃井かおり)と冴えない晋作(渡瀬恒彦)は同棲中。エキストラばかりだった彼女が初めて台詞をもらえた。主人公の友人役で「もしかしたら私たちの考えてることって同じなんじゃないかしら…」の一行だけ。 ある日、中年女(樹木希林)が男児を連れて晋作を訪ねて来る。何でも隣室の明美が駆け落ちして幼い新一の父親候補5人の元彼の名前と住所を記したメモを託したのだ。その一人が晋作。小夜子との間が険悪になり、彼は新一君を連れて父親探しの旅に出たところ小夜子も母親の面影を探して同じ方向へ…。尾道、別府、長崎と元彼を訪ね歩くが皆“シロ”だった。二人は言葉巧みに「養育費」を貰いニンマリ…。途中、小夜子は幼い頃に自分を捨てた母の郷里・天草を訪ねるが、その母は長崎の丸山で働き、後に唐津へ移ったと聞いて肩を落とす。晋作と喧嘩して“夜のふれあい”を拒んでいた彼女に晋作は「私たちの考えてることって」と誘うが…。 子供の頃の記憶に残る町並みを唐津で見つけた小夜子を連れ晋作が最後に訪ねたのは若松の親分・高田五郎。しかし既に亡くなっていて、父親の幾松(嵐寛寿郎)と妻まさ(吉行和子)によれば、五郎はあちこちに子をつくっていたので新一も責任を持って引き取る―と言う。肩の荷が下りてホッとした二人は帰路につくが、若戸大橋を渡りながら顔を見合わせ「私たちの考えてることって」と踵を返すのだった…。洒落たエンディングに笑みと涙が溢れ、思わず拍手を贈りたくなる感動作。File No.71

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