7行き倒れ寸前のところを三木巡査が救助し、千代吉を国立療養所に送り、秀夫を養子にする心づもりだった。が、秀夫は逃げ出した。その先は誰も知らない…。 ややあって理恵子が流産の末に死んだことから、その愛人だった気鋭の音楽家・和賀英良(加藤剛)が重要参考人となり、行方不明の秀夫と繋がっていく―。 クライマックスは今西が熱弁を振るう捜査会議、和賀が作曲した新曲『宿命』の発表演奏会、そして千代吉と秀夫が辿った旅路の映像が“三重奏”となって感動を呼ぶ。清張から映画化を託された脚本家・橋本忍は苦労の末、人形浄瑠璃に当てはめた構造を考え出した。義太夫の語りが捜査会議、三味線弾きが和賀の演奏、そして中央の書き割り(背景画)に父子の旅路が描かれる。それを軸に山田洋次と大胆なシナリオを完成させた―という。が当初、松竹は難色を示し他の映画会社も「当たらない」と引き受けてくれなかったようだ。そこで橋本は自らプロダクション設立に動き、野村監督も松竹から離れても撮る!と言い出したため松竹が製作費折半で妥協した。 当時、10カ月もの全国縦断ロケで四季の風景を撮るなど常識外れとされ、そのうえ音楽製作に相場の三倍もの費用を投じるなど何もかも破格だった。それが功を奏し本格的な推理ものでありながらも人間ドラマとして“魅せる”作品に仕上がり、予想以上の大ヒットになった。つまり興行として儲ける算盤勘定より、カツドウ屋として「いい作品を撮りたい!」という情熱が勝つことを実証したのだ。何度も観たが、今なお涙が溢れる名作中の名作である。
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