2024年4月
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CITYCINE CITTACINEMA7と親しくなったベン・ハーは馬車の制御手腕を見込まれ、戦車競走に出てくれと頼まれる。連戦連勝のメッサラを倒したい―と聞き、復讐心に燃えたベン・ハーは御者として大競走に出場する…。 クライマックスの戦車競走場面はローマ郊外の「チネチッタ(映画の都)撮影所」で撮られた。何カ所か合成した程度で、特撮もCGもない時代に生身の演技で、手に汗握る場面の連続をよくぞ迫力満点に撮ったものと脱帽する。 映画は再び救世主のお陰で母と妹の難病も完治し、ハー家の人々の感涙で終わるのだが、その後もユダヤの民は故郷を追われ、世界各地に散りぢりに…。『十戒』やこの『ベン・ハー』に始まり、近世では『屋根の上のバイオリン弾き』などでも受難と放浪が描かれた。二度の大戦でも数多くの犠牲者を出した末、欧米列強の思惑もあり『栄光への脱出』に描かれたように現在のイスラエルが建国された。しかし、ユダヤ教からキリスト教が生まれ、同じ神を崇拝しているはずのイスラム教とは何故か反目している。ユダヤとアラブの民はかつて仲良く暮らしていたのに、今や神の慈愛を忘れたのか、血で血を洗う領土争いに明け暮れる。ローマ帝国の強権政治を撥ね除けようと手を組んだ時代を忘れて、隣人と殺し合えば、やがて神様の逆鱗に触れ、天罰を喰らうぞ!とこの映画は教えてくれたのに…。「キリスト礼讃映画」と言う勿れ。これは独裁政治と闘ったユダヤの勇者とアラブの友との感動秘話であり、“活動屋魂”で映画化した人々の記念碑的なオスカー像だ。映像はもちろん音楽も素晴らしいことを記しておきたい。

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