続いた。劇場の事務所に行くと黒板には毎週のように「お座敷」(公民館や学校などでの移動上映)の予定が書き込んであり、それは一年くらい続いたという記憶がある。地元が大騒ぎになった。どこでどう調べたのか、全国からロケ地めぐりの観光客が押し寄せたのだ。交通の便もよくないのに…と塩津の人々はそのヒットが予想外の反響を呼び驚き、大急ぎで手作りのマップを用意したとか。加えて教育関係者の塩津小学校視察もぞくぞく、何年も続いた。公開の翌年、個人事業でシネマッド舎を設立、その案内を年賀状名簿を基に送付した。すると、錦織監督から特別上映会の案内状が届いた。曰く「新作を上映してトークショーもやるので、ぜひ観に来てください」と。それはボディーボードを題材にした実話の映画化『ハート・オブ・ザ・シー』で、経産省が推し進めた《デジタルde〝みんなのムービー〟プロジェクト》第一作。音楽を担当した人気ミュージシャン杉山清貴が出会った伝説のボディーボーダー、四方田冨士子さん(ʼ01年に他界)のナチュラルな生き方をベースに海辺の町の人々を淡々と描いたもの。 三トークショーの後、楽屋へ挨拶に伺うと、錦織監督は「いろいろ話をしましょう。これから一緒に食事に行きませんか」と。広島市中心部の飲食店で、錦織監督と杉山清貴との〝普段着の雑談ふう〟インタビューが始まった。「自然体で生きることの素晴らしさを自然に撮った」と話す錦織監督。そういえば海辺の場面で波を制するサーフィンに比べ、波と一体になるボディーボードの魅力を映像から感じた―と感想を言うと、「おぉ、分かってもらえましたか」と満足げな笑みを見せたのが印象的だった。以降も、何も起こらないが心に何かが起こる作風が続いた。※『ハート・オブ・ザ・シー』は房総半島の和田町が舞台。出演は須藤理沙、マイク真木、杉山清貴「シネマッド」 2003年8月号の巻頭特集
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