7 村上と佐藤は地道な捜査の末に遊佐が最近、幼馴染みのダンサー並木ハルミ(淡路恵子)のレビューに通い詰めていることを突き止め劇場に行くが、彼女は不服そうな顔で知らぬ存ぜぬを貫く。やがて第二の強盗殺人が発生した。 二人の刑事はハルミのアパートに押し掛けて遊佐の居場所を聞き出そうとするが、彼女は頑なだ。そのうち遊佐が置き忘れたマッチから潜伏先を察知、村上はハルミに張り付いて遊佐の接触を警戒し一方の佐藤が安宿を探し歩いた末遂に居場所を見つけ出すが…。 まだGHQの管理下で、復興も半ばの街は猥雑なうえ人々は野獣のように逞しく動いている。多種多様な服装、多彩な流行歌なども当時の雰囲気を醸してくれる。 うだるような炎天下、登場人物は汗を拭いながら懸命に生きる。そして遊佐の居場所を突き止めた時に突然、雷雨が街を覆い空気が冷たく感じられるという仕掛けもあって最後の追撃戦に突入する。黒沢との共同脚本とはなっているが、警視庁に通い詰めて取材した菊島の巧みな描写と展開が作品をサスペンスたっぷりの人間ドラマに仕上げたと見ていいだろう。 ベテランの俳優陣がそれぞれに個性を生かして好演する中、当時16歳でSKD(松竹歌劇団)養成中だった淡路が映画初出演したが、なんでも「踊りは好きだけど映画は…」と半ば不貞腐れていた彼女の表情がいいから―と黒沢が抜擢したうえ「恵子」の芸名も付けたという裏話もある。 後に数多くの黒沢作品に参加し製作も手掛けることになる菊島の才能は、このデビュー作で十二分に見てとれる。必見の痛快作。
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