しかし「力」とは何か、本当の強さとは何かを儂は知らなかった》と。さらに中盤、尼子の侍が伍介に諭す《心が強いからこそ争いを避ける。心が弱い者が力を持てば驕りとなりやがて暴力になる。刀を抜くこと、それ即ち「死」を意味する》と。これは現代の国際紛争、核戦争の脅威に通じることだろう。そんな深いテーマの作品を錦織監督は島根の山奥で、県などの協力を得て広大なオープンセットを建てて、今回も高画質のフィルムでじっくり撮った。デジタルの8K、16Kでも敵わない解像度と描写力だ。しかも本場アメリカから最高級のパナビジョンカメラ三台を取り寄せ、芝居も、実景も美しく写し取った。わしおごすなわ◀モントリオール世界映画祭で最優秀 芸術賞を受賞した錦織良成監督 三劇中、北前船が登場するが、これは青森で新聞社が復元した〝本物〟の船を借りて陸奥湾で撮った。これらホンモノにこだわった準備の中から錦織監督は石見銀山を中心に、北国から日本海側を巡って九州に至り、さらに瀬戸内に繋がる街道も含めた強い経済圏、文化圏があったことを再認識したと話す。「学者さんの中には青森から博多までが出雲だ―と言う方も…。だから〝島根の映画〟を撮ってる感覚はなかった」と。初めて悪人が登場しますけど…と少々意地悪な質問をすると、悪人か善人かは心の持ちようだ―と前置きして、「勧善懲悪の時代劇ではなく果たして誰が善人で誰が悪人なのか考えながら、刀を抜かないのが本当の強さ―という武士道の凄さも感じとってもらえれば」と微笑んだ。この作品は、モントリオール世界映画祭での最優秀芸術賞をはじめ、二十七カ国で十九の賞に輝いた。◯C2017「たたら侍」製作委員会
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