7「魅惑のワルツ」(Fascination)の甘いメロディが彼女を酔わせる。いや、いけない!と別れを告げるが、彼女は寝ても覚めても…。 翌年、偶然に再会した二人は、いつものリッツ14号室でデート。アリアーヌは盗み読んだ調査記録から男性遍歴の作り話を連発してフラナガンを悩ませる。ある日、彼はX氏とばったり会い、名前も明かさない彼女の素性を探りたいのだが―と名探偵シャバスを紹介してもらうのだった…。 出世作『ローマの休日』以来、《世界の恋人》とも《妖精》とも呼ばれて5本目の作品で、夢みる娘をキュートに演じたオードリーは、ゴールデン・ローレル賞では女性コメディ演技賞に輝いたほかニューヨーク映画批評家協会賞とゴールデングローブ賞の女優賞にノミネートされている。もちろん相手役のクーパーと父親役を好演したシュバリエのお陰でもある。そして例のジプシー楽団が何度も登場して奏でる「魅惑のワルツ」が重要な“小道具”となってラストまで魅了してくれる。これら全て名匠ワイルダーの粋な演出。何度観ても素敵なのはワイルダー監督の“魔術”なのかも知れない。 この作品、最初はまだ学生の頃テレビ『日曜洋画劇場』で観た。解説の淀川長治さんがさまざまな見どころを話した後、こんな裏話も付け加えた。私生活でモテモテの色男だったシュバリエが浮気を調査する探偵に扮し、片や真面目で通っていたクーパーが浮気男を演じたことが「面白いですねぇ。ワイルダーのイタズラですねぇ。こういうの“楽屋落ち”言うんですよ。それでは皆さん、さよなら、さよなら、さよなら…」と。
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